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研修後記

生きているヒューマニズムと協働の精神
三上 貴生


 自分の老後を楽しむ、と言う考えは日本人にとって希有な願望だろうか。
 今回、日本福祉施設士会の海外研修に参加して痛切に感じたことは、老後を楽しむ、ということだった。われわれは世界各国、それぞれの歴史、文化があるのは当然とし、自らの国と比較した際、必ずといっていいほど、文化風土の違いを謙虚に受け止めなければなるまい。
 以前、デンマークへ行った際、職員の一人が「この国を守ってくれた人、この街並みを残してくれた人は、今ここにいるご老人なのです」と私たち一行に言ったのも、その国の歴史認識、風土文化を自慢したいがためも多少あるのだろう。今回のオーストラリアにおいても歴史自体は浅いといわざるを得ないが、浅いが故の風土、文化を感じる思いがいたるところで感じたのである(先住民は別として)。
 短い滞在ではあったがこの国にはヒューマニズムがいまだ健在し、協働の精神や助け合わねば生きていけなかったという過去と歴史を踏まえた上で成り立っているのだろう。視察先の講演を開いた上での私なりの感想である。
 われわれは昨今、先進福祉国視察と銘うって様々な研修企画を目にするが、そろそろ終焉の時期ではないだろうか、という気がしている。今回の老人施設の視察においても制度上でのことは参考になるとは思いはしたが、その他のことではそれ程感心するものはなかったような気がしている。逆にわが国の施設運営等の方が先進しているのではないかと思われる箇所があった。
 われわれに足り得ないのは、制度上の不備を解決する力、利用者への充実したサービスなど利用する側の不満を解決する糸口をわれわれ自身、見つけられないことであろう。国の政策を待つことでしかできないわれわれの業界は、今後どのように進んで行くのだろう。
 さて、今回の研修先オーストラリアにおいては、非営利団体、営利団体のバランスがとても良い方向で機能しているのである。
 今回最初に訪問したACOSS(オーストラリア社会サービス協議会)は貧困や不公平の改善を求め、福祉予算の増額を要求し、政治活動も展開するということであり、53年の歴史があるという。福祉活動をしているNPO法人のほとんどがこのACOSSに加盟しているという。その数は一万一千団体にのぼるという。オーストラリア地域・在宅サービス事業(HACC=Home and Community Care Program)は在宅サービスの大きな要である。訪問看護サービス、ホームへルプサービス、食事サービス等利用率が高い。徹底して在宅志向であり、我が国でも問題になっている介護保険適用外の老人(虚弱老人)に対して施設サービスと同等のサービスを提供するという。これらのサービスコーディネイト、サービスの発注はケースマネージャーによって行われる。おおよそ以上のことを事前に頭に入れて次なる施設の訪問となった。
 フランク・ヴッカリー・ビレッジは日本でいうケア付マンションとでも言うのだろう。高齢者ケア・アセスメントチームが(ACAT)評価し入所が決定する。入所条件としては、身動きができ、プログラムを消化できる。年金の80%を納める(資産があるかないかは別として無くてもよいとのこと)オーストラリアにおいても介護度によって介護単価が違うため施設としても介護面と金銭面においてバランスを取るのだと言う。施設ケアについては1997年10月から「ナーシングホーム」「ホステル」について連邦政府より公的補助金の算定基礎となる施設入居者分類基準が統一され、これにより補助金算定に関する両者の違いが小さくなり、介護度が高くなった高齢者をホステルからナーシングホームへと追いやるという現象が少なくなったと言う。
 また、介護施設の利用に際しての応分の負担ということで入所者には基本的な利用料金が課せられている。ナーシングホーム、ホステル共、老齢年金額と家賃の合算額87.5パーセント以内が課せられていたが更に98年3月より入所者の所得に応じ、ケア施設に対する追加利用料(上限37.96豪ドル/日)が更に課せられる。同時に施設整備の維持、改善費として従来ホステルのみに導入されていた入居一時金徴収制度に加え、同様の目的で徴収される入居料制度を97年11月よりナーシングホーム(旧ナーシングホームレベルのサービスを受ける高齢者)に導入した。
 以上が今回の私なりの研修後記である。海外研修の上、事後調査及び、通訳の言葉を借りてでのことであるので間違いがある場合はご勘弁願いたい。65歳以上の就業が15%ということでパラリンピックではボランティアの方がその年代の方が多いのが印象深い。オーストラリアの季節は春であった。日本でいう桜、ジャガランダの木が眩しく、心に残る研修であった。