ブロック・都道府県福祉施設士会の活動報告
第31回中国・四国ブロックセミナー香川大会 開催報告
中国・四国ブロック福祉施設士会は、9月3日(木)・4日(金)に、かがわ国際会議場(香川県高松市)で第31回中国・四国ブロック福祉施設士セミナーを開催した。当日は香川県健康福祉部の野本祐二部長をはじめ開催地の大西秀人高松市長からもご挨拶をいただき、福祉施設士に対する期待とエールを送っていただいた。
参加者は中国・四国各県から108 名が集い、2日間にわたり福祉施設士としての施設運営について活発な意見交換が行われた。各プログラムの概況を報告する。
1日目は、日本福祉施設士会中国・四国ブロック理事である藤田久雄氏の主催者挨拶に続き、日本福祉施設士会岡田好清副会長が「社会福祉法人・福祉施設を取り巻く環境変化への対応と福祉施設士に求められるもの」と題し基調報告を行った。最近の社会福祉法人に対する指摘事項について様々な事例等を交えて解説するとともに、福祉施設士会の事業や進むべき方向性について報告がなされた。最後には「福祉施設士は常に当事者意識をもって、率先して課題を解決していこう」と呼びかけた。
続いて、「社会福祉事業におけるコンプライアンスとリスクマネジメント」と題し岡山大学大学院法務研究科(法科大学院)教授 西田和弘氏に講演をいただいた。
福祉分野では、コンプライアンス、リスクマネジメント、ガバナンス、CSRが重視されている。「物を作る」有形の事業ではなく、「サービスを創造していく」無形な事業である、それゆえにしっかりとした規律やルールづくりが重要であり、「トップダウンでルールを決める」よりは「一から職員参加型のルールづくり」をしたほうが、より職員に浸透するようになるのではないかとアドバイスがあった。そして、ルールを決めた後はそれを適正に評価する仕組みづくりが必要であり、PDCAサイクルの構築がまずコンプライアンスには必要とのことであった。
講義後半には様々な事件・事故の判例を基に「過失」と「故意」の違いと、管理者の取るべき対応方法について解説があった。特に、最近増加傾向の高齢者施設での虐待問題については、職員教育も重要であるが、職員のストレスを蓄積させないような職場風土の醸成が必要不可欠との指摘があった。最後には労使の問題や労働関係法規の遵守についても触れ、管理者は利用者から労働者全てにおいてコンプライアンス意識を持ってほしいとのことであった。
1日目最後は、「生活困窮者支援を通じた地域づくりと社会福祉施設の役割・連携」をテーマにシンポジウムを展開した。全国社会福祉法人経営者協議会の宮田裕司保育事業経営委員長をコーディネーターに、六心会(滋賀県)堤洋三理事長、いずみ保育園(香川県)理事長の忽那ゆみ代理事長、香川県社会福祉協議会の日下直和事務局次長の3 名のシンポジストから各県地域ネットワークの取り組み事例の発表と諸課題について討議した。
香川県では平成27 年度より香川県社会福祉協議会を中心に生活困窮者相談支援事業「香川おもいやりネットワーク事業」を立ち上げ全県的な活動をスタートした。今回のシンポジウムを通して「自施設のネットワーク参画について方向性を定めたい」という県内会員も多く、時間が足りない程、充実した内容のシンポジウムとなった。
セミナー2日目は2 つの発表を行った。まず、日本福祉施設士会で推進している「福祉QC」について、「当法人における『福祉QC』10 年の歴史を振り返って」をテーマに、サンリッチ屋島(香川県)の近藤厚志施設長と高木理奈栄養士が、管理者が「福祉QC」に期待するものと職員が福祉QCで得たものについてそれぞれの立場で発表を行った。
続いて、1日目のシンポジストとしても登壇した六心会の堤洋三氏から、法人間連携・協働について「リガーレ~暮らしの架け橋~」の事例(リガーレの実践内容については本会報8月号15 頁参照)を発表した。法人間連携による知名度向上、人材獲得戦略の効率化、地域の安心、良い意味での法人間牽制機能など、参考になることが多い発表であった。主体的な取り組み(事務局機能)をどの法人が務めるかがカギとなる。会員施設法人が各地で実践されることに期待したい。
閉会に際しては、次期開催県の島根県福祉施設士会竹内寛和会長より挨拶があり、今回の香川大会を締めくくった。
東京都福祉施設士会 秋季セミナー 開催報告
東京都福祉施設士会は、平成27年8月26日(水)に淑徳大学東京キャンパスにおいて「社会福祉施設におけるリスクマネジメント」をテーマに施設管理者向けにセミナーを開催し、111名(会員外88名を含む)が受講した。
当セミナーは昨年に引続き、株式会社アイギス代表取締役脇貴志氏による講義であるが、ほとんどの内容が、昨年と重ならず、リスクマネジメントの深さと大きさを感じるものであった。以下、講演要旨を報告する。
危機管理の基本、リスクとリターンは表裏で同じ大きさ
日本列島は地震列島であり、この地勢はリスクといえる。このリスクがあるから温泉があり、景勝地となる山や川というリターンがある。海も同様である。例えば、海から近いところにある鰹節製造業者にとっては、津波に流されるリスクがある。しかし、海から近いために鰹の輸送は便利というリターンもある。
災害時の初期対応は災害が終わった時から
日本は大雨で毎年死者が出ている。天気予報で雨がいつ来るか分かっているにも関わらず死者が出てしまうのは、リスク管理ができていない表れである。
災害に備えた備蓄は、災害後の施設のライフスタイル(各施設で異なる)によって決まる。「一人当たり1日2リットルの水」等の基準だけで決めるものではなく、各施設で作ることである。
自分が災害時に「困らない」様にするのが備蓄であり、災害時の危機対応である。炊き立てのご飯が食べられてシャワーが浴びられるように、となると生活用水は飲料水の10 倍は必要になる。皆さんの施設では、ハンディキャップの有る方を含めて、災害後の施設のライフスタイルを想定して備蓄をしているだろうか。
危機対応の事例から学ぶ
クレーム対応の基本は相手の頭の中のイメージにある。保育園から発する音をマスコミが騒音問題として取り上げると、世間では保育園の音を騒音問題としてとらえる。地域の方は保育園の音をどう思っているだろうか? 保育士は保育園の隣人に挨拶をしているだろうか? ある人は、「子どもの声は許せるが、心情的に保育士の怒鳴っている声は許せない」と指摘していた。相手にどのように伝わっているか、普段からトレーニングをしておこう。
普段できていないことは、災害時にもできない。「ホウ・レン・ソウ(報告・連絡・相談)」が徹底できなくても、最低限、コミュニケーションの確認のできる職員に育てることが必要である。トップの資質として大切なことは、信頼できる職員は誰であるか分かっていることとなる。
子供の死亡事故があった時に、園長・職員・理事長が、自己が悪いと認めるかどうか。これまで起きた死亡事故で施設側は必ず同じ事を言う。「こんな事は初めてだから」。今までの成功体験は、こうした時は邪魔になってしまう。
ある公立保育所で、食べ物が喉に詰まって子どもが亡くなった時、課長が「一対一で見ていたのだから問題ない」と言った話がある。人間の脳は自分を守る働きをする。分からない職員・園長・理事長は、保身に動き、自分を被害者と思うまでに至ることもある。危機対応の基本は、相手を論破する事ではない。起こったことを受け止め、相手の気持ちを真摯に考えることである。親にとって大事なのは職員体制ではなく、亡くなったこと自体が問題なのである。
大切なことは、人として事実を正確に受け止め、すまないと思うことである。保護者は子どもが亡くなったことも事故も許せない。施設は誠実に対応していると思っていただく事が目標となる。
事故の原因が分からない時の原因分析
原因分析手法として「SHELLモデル」が知られている。Sはソフトウエア(マニュアル、規則等)、Hはハードウエア(器具、設備、施設の構造等)、Eは環境(温度、湿度、照明、死角、音等)、Lは当事者以外の人々(間接的に事故に関係する人)、Lは当事者(知識、意識、経験等)。元々は航空業界で発生する事故を分析して作られた手法で、医療にも使われている。しかし、社会福祉施設の事故は、人のコミュニケーションに因って発生する事故なので自分は使わない。いずれ「脇モデル」を作る。
自分は現在は、「五感分析」を使っている。鼻は嗅覚、口は味覚(食中毒等)と言葉(何を言うべきだったか)、耳は聴覚(聞き分けられる、利用者の言っている事、人として聞く事、専門の有るべき事の考えがあると聞けなくなる、数字は感覚に栓をする、聞き流し、等)、手(触れることで分かる)、目は視覚(見るから看るへ)。結果として「…べきだった、の分析」ができるようにしている。
セミナー休憩時には質問用紙を回収し、後半の講演は質疑応答の形で展開した。最後に脇氏は、「確認の目的は、思い込みの排除である。思い込みを排除しないと人間は自己中心的に思い込み、都合良い様に思うものである。」と指摘して講演を締めくくった。
(文責:東京都福祉施設士会事務局)